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(健康栄養学科)低温調理と殺菌

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低温調理と殺菌

(レアチャーシューと鰹のタタキ)
 つい先日、「鶏のレアチャーシュー」なるものが乗ったラーメンを食べた客がカンピロバクター食中毒を発症した事件がSNS界隈で話題となりました。
 お店の説明によると低温調理技術を利用しており加熱済みだったとの認識のようですが、添えられた写真を見る限り、周辺部以外は生肉そのもので、とても加熱したと思えるものではありませんでした。
 確かに日本の食文化は様々なものを生食し、「鳥刺し」なる文化も存在します。しかし、カンピロバクター食中毒はギランバレー症候群を引き起こす可能性があり後遺症に苦しむ可能性もあります。そのため平成28年度末に厚生労働省は鳥の生食規制を強めることとし、実質的な禁止措置をとっています。
 今回の件は、それらの規制を掻い潜るための苦肉の策という印象が拭えません。まるで江戸初期に土佐に赴任した山内家が、食中毒の多いカツオの生食を禁止し、それに反発して「カツオのタタキ」が生まれたとの逸話を彷彿とさせる話題です。

「火が通る」ということ
「火を通す」ことにはなんの意味があるのでしょうか?
なぜ加熱すると殺菌できるのでしょうか?
漠然と知っているようで実のところ良く知らないのではないでしょうか?
実はこの両者にはタンパク質の性質が大きく関わっています。
タンパク質は生命活動に重要な栄養素ですが、他の栄養素にはない非常にデリケートな特徴を持っています。
タンパク質の正体はアミノ酸でできたヒモです。しかし、ただのヒモで良いわけではなく、複雑にきちんと正確に折り畳まれて初めてその機能を発揮します。つまりタンパク質が機能するには「カタチ」が何よりも重要です。ですが、タンパク質自身の性質によるものの、この「カタチ」は簡単に壊れてしまいます。
 身近なところでは卵白を泡立てて作るメレンゲがあります。泡立て器で叩く衝撃で本来なら球状の卵白のタンパク質が壊れ、広がることにより膜を形成するおかげで泡となります。このように「カタチ」が壊れることで性質が変わることを「変性」と呼んでいます。
変性は、温度 や pH など様々な環境の変化によっても生じる現象です。つまり「火が通る」=「肉のタンパク質の熱変性」ということができます。実は熱変性したタンパク質は、生の状態より消化しやすく、アレルギー反応を起こしにくいことが知られており、消化吸収率と安全性を向上させる効果があります。
 では、殺菌と加熱の関係はどのような関係があるのでしょうか?
 私たち有機生命体は体内で様々な生化学反応の結果、活動することができています。この反応には「酵素」と呼ばれるタンパク質が関わっています。「酵素」はタンパク質の中でも特に温度変化に敏感で、熱変性で簡単に機能を喪失し、その結果体内の生化学反応が停止して、いわゆる死に至ります。そうならないよう、多くの生物では様々な温度帯でもある程度活動可能なように、より高温でも働ける全く同じ機能を持った酵素を複数備えています。しかし、それを超える高温にはやはり耐えられず、やがて全ての酵素が働けなくなります。加熱殺菌はこのようにして生命活動を停止させます。
 
 75℃,1分と同等以上に加熱条件と低温調理
この条件を衛生基準として定めた結果「75℃,1分以上の加熱と同等以上の加熱条件」となります。
こう聞くと、簡単では?と思う人もいると思いますが、実際には沸騰水で茹でるなど一般的な加熱であっても大変です。なぜならこの条件は、加熱している肉の全ての部分が 75℃,1分以上加熱されることが求めています。表面だけ75℃,1分なわけではありません。内部に至るまで75℃,1分の加熱が必要になります。低温調理であれば尚のこと時間がかかります。
より低温の場合の同等以上の加熱条件は少々複雑な計算で求められるのですが、一般的によく使われるものとして 70℃, 3分 と 63℃,30分があり、より低温になるほど要する時間は急激に伸びていきます。
 低温調理器を販売しているBONIQのマニュアルによると、これを実現するためには、3 cm 厚の鶏肉(一般的なカタマリ)でさえ70℃で1時間35分の時間を要します。つまりチャーシューとして出すようなかたまりはもっと大きく、より長時間の加熱をするため、どんなに低温でやろうとも周辺部だけではなくもっと中心まで加熱が進むことになります。

ローストビーフと低温調理
レアチャーシューと非常によく似ている料理には、ローストビーフやレアステーキがあります。あちらは問題ないのかというと、そんなことは全くありません。体の大きい牛は鳥や豚よりも、筋肉の中心部まで細菌が侵入しにくいというだけでしかありません。鳥・豚同様に食中毒は起きています。本場イギリスですら余ったローストビーフは速やかにカレーの具として利用されます。
 生が好きな人は確かに多いのですが、くれぐれもリスクを把握した上で個人の趣向として嗜んで頂きたいと思います。

https://boniq.store